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宇都宮地方裁判所 平成6年(わ)390号 判決

主文

被告人有限会社甲を罰金二〇〇万円に、被告人甲野太郎を懲役八月に、被告人乙山次郎を罰金二〇万円に処する。

被告人乙山次郎においてその罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人甲野太郎に対し、この裁判が確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

被告人乙山次郎から、宇都宮地方検察庁において保管中の酒類の換価代金(宇都宮地方検察庁が平成五年領第一〇三五号の符第二九号から符第八六号までで領置した酒類に対するもの)合計一六八万一〇〇〇円を没収する。

〈省略〉

理由

(犯罪事実)

第一  被告人有限会社甲は、栃木県足利市松田町〈番地略〉に本店を置き、同市松田町〈番地略〉を販売場として、所轄足利税務署長から酒類販売業の免許を受けて酒類販売業を営んでいるもの、被告人甲野太郎は、被告人有限会社甲の取締役であり、その実質的経営者として被告人有限会社甲の業務全般を統括している者であるが、被告人甲野太郎は、法定の除外事由がないのに、被告人有限会社甲の業務に関し、

一  Bと共謀の上、所轄春日部税務署長の免許を受けないで、平成二年六月一日から平成五年五月一八日までの間、多数回にわたり、埼玉県春日部市緑町〈番地略〉の酒類の販売場において、Cらに対し、清酒等の酒類合計五二万二〇二〇・五八七リットルを代金合計三億〇七七九万四七九二円で販売し、

二~一一 〈省略〉

もって酒類の販売業を営んだ、

第二  被告人乙山次郎は、甲野太郎と共謀の上、法定の除外事由がないのに、所轄越谷税務署長の免許を受けないで、平成二年一〇月一日から平成五年五月一八日までの間、多数回にわたり、平成三年一〇月ころまでは埼玉県北葛飾郡吉川町〈番地略〉、同月ころからは同所〈番地略〉の酒類の販売場において、Aらに対し、清酒等の酒類合計六一万二八一六・三八九リットルを代金合計三億七二九四万七〇五五円で販売し、もって酒類の販売業を営んだものである。

(証拠の標目) 〈省略〉

(争点に対する判断)

弁護人は、「〈1〉酒税法九条一項の酒類販売業免許制度(以下「酒販免許制度」という。)の規定は、憲法二二条一項に違反し、無効である。 〈2〉仮に、酒税法九条一項が憲法二二条一項に違反しないとしても、被告人らの行為は、無免許販売には該当せず、被告人らには無免許販売の故意はなかったもので、被告人らは無罪である。」旨主張するので、以下、これらの点について判断する。

第一  酒税法九条一項の酒販免許制度の規定は憲法二二条一項に違反するかどうかについて

一  憲法二二条一項適合性の判断基準

職業の許可制は、職業選択の自由に対する強力な制度であるから憲法二二条一項適合性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきであるところ、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきであるから、酒税法による酒販免許制度については、公共の利益の観点からこれを必要かつ合理的であるとする立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできない。

二  酒税法九条一項の合憲性

酒税法は、酒類に酒税を課するものとし(一条)、酒類製造者に対し、その製造場から移出した酒類につき酒税を納める義務があると規定した上(六条一項)、酒類等の製造及び酒類の販売業について免許制(一項の憲法判断で述べた「許可制」に該当する。)を採用している(七条から一〇条まで)。これは、酒類の消費を担税力の表れであると認め、酒類についていわゆる間接消費税である酒税を課することとするとともに、その賦課徴収に関しては、いわゆる庫出税方式によって酒類製造者にその納税義務を課し、酒類販売業者を介しての代金の回収を通じてその税負担を最終的な担税者に転嫁するという仕組みによることとし、このような仕組みのもとにおいて、納税義務者である酒類製造者に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者に対する税負担の円滑な転嫁を実現することを目的として、これを阻害するおそれのある酒類販売業者の酒類流通過程への参入を抑制し、酒税の適正かつ確実な賦課徴収という重要な公共の利益を図ろうとしたものと解される。

もっとも、このような酒販免許制度の採用後、社会経済の状況や税制度の変化に伴い、酒税の国税収入全体の占める割合等が相対的に低下するに至ったことから、免許制を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論があるところであり、また、近時、酒類販売業に関するいわゆる規制緩和論が高まり、あるいは、その免許制の柔軟な運用が一層求められていることも明らかな事実である。しかし、確かに、酒税の税収全体の占める割合は、昭和五三年度には六・四パーセントを占め、税目で所得税及び法人税に次ぐ位置にあったのに比べ、平成元年度以降は、三パーセント台に落ち込んでいることが認められるが、それでも酒税は、税目で五番目の位置を占め、その収入総額は一兆九〇〇〇億円前後で大幅な増減がなく、販売代金に占める酒税比率も高率であること、景気の動向又は土地評価額などによって税収が大きく影響される法人税又は相続税などと比較して安定した収入をもたらしていること、税負担を適正、円滑に転嫁するという酒税の賦課徴収に関する前記仕組み自体はその合理性を失うに至っているとはいえないことなどからすると、本件当時においてなお酒販免許制度を維持存置させていたことが、前記のような立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまでは断定し難い。

したがって、酒税法九条一項に規定する酒販免許制度は、憲法二二条一項に違反するものとはいえない。

第二  被告人らの行為が無免許販売に該当し、被告人らに無免許販売の故意があったかどうかについて

一  被告人らが行っていた酒類の販売形態

被告人らが行っていた酒類の販売形態は、被告人甲野太郎が考案したクイニーシステムと称するものである。このシステム自体にも、時期的に多少の変遷があるが、昭和六三年一〇月以降のロイヤリティ方式でのクイニーシステムの概要は次のとおりである。

1 営業所(被告人らの呼称に従った表現である。)の責任者が、被告人有限会社甲(判示販売場につき「酒類販売業は小売に限る」との条件を付された酒類販売業の免許を有している。以下「甲」という。)との間で商品販売業務契約を締結し、加盟料を支払う。

2 営業所は、甲で扱っている酒類のうち、売れ筋の酒類の種類、銘柄、数量を見極め、自らの判断で甲に注文し、その仕入れ代金相当額の保証金を支払うと(前払いが原則である。)、酒類問屋から営業所に直接酒類が納入される(被告人甲野太郎の第二二回公判供述(速記録一三二一丁以下)及びDの検察官に対する供述調書)。平成四年六月ころからは、納入体制の変更により、仕入れ代金相当額に平均運賃相当額を加えた額を支払わせることになった(ポイント制と称する。)。

なお、営業所によっては、甲を通さずに直接、甲の取引先の酒類問屋に酒類を発注したり、直接、甲の取引先の酒類問屋に酒類の代金を支払うことも容認されていた(被告人甲野太郎の平成六年八月七日付け供述調書別添三の念書)。

3 顧客はフリーダイヤルの電話により、甲に酒類を注文する。

4 営業所がオンラインにより甲のコンピュータにアクセスすると、顧客の注文内容が伝票として端末機から出力されるので(平成二年一〇月以降。それ以前はファックスで受信していた。)、営業所は、その伝票に従って、保管してある酒類を顧客に配達する。

なお、営業所に注文された酒類の在庫がないときは、甲を介さず、直接顧客と連絡をとり、注文内容の変更や配達の延期の交渉をし、これに応じてもらえない場合には、近所のディスカウントストアあるいは酒類問屋などから顧客の注文の酒類を購入して(被告人甲野太郎に対する被告人質問の中で、同被告人及び弁護人は、これを「独自仕入れ」あるいは「直接仕入れ」と称している。)届けることを行っていた営業所があり、被告人甲野太郎はこれを容認していた。

また、営業所によっては、顧客に酒類を配達した際に酒類の追加注文を受けたり、営業所を訪れた客から酒類の注文を受けたり、客から営業所にかかってくる電話で酒類の注文を受けたりして、これを配達するということを行っており、この「独自受注」は、システムとして許容されていた(被告人甲野太郎の検察官に対する平成六年七月一日付け(検一号)及び同月八日付け各供述調書)。この独自受注による配達分が全配達分に占める割合は、概して僅少であった。

5 営業所は酒類の配達時に販売代金を受領して保管し、月に一度、次のとおりロイヤリティを支払い、残額を営業所の利益とする。

固定ロイヤリティ(原則月二三万円)

変動ロイヤリティ

共通取扱い商品(甲がナショナルブランド商品と呼んでいる有名ブランド商品で売れ筋のもの)

売上げの一・三パーセント

その他の商品(甲がプライベートブランド商品などと呼んでいるクイニーのオリジナル銘柄など、あまり名の知られていないもの)

売上げの二・三パーセント

営業所が顧客から「独自受注」した商品

売上げの〇・八パーセント

二  弁護人の主張及び酒類の販売の意義

酒税法によれば、酒類の販売業をしようとする者は、販売場ごとに所轄税務署長の免許を受けなければならないが、酒類を貯蔵する場所である蔵置所の設置に免許は不要である。弁護人は、「本件において、免許を受けた販売場で行うことが要求されている酒類の販売とは、酒類の売買契約の締結のみであるところ、クイニーシステムにおいて、酒類の売買契約(注文に対する承諾)は免許を受けた販売場(甲)で適法に行われており、営業所は甲の蔵置所であり、蔵置所の責任者は独立した倉庫管理・宅配業者であって、右蔵置所では、酒類の保管及び甲からの指示による酒類の配達が行われているにすぎず、酒類の販売は行っていない。」と主張する。当裁判所も、本件において(酒税法九条一項本文で総称された販売業から、販売の代理業及び媒介業を除いて考察する趣旨である。)、免許を受けた販売場で行うことが要求されている酒類の販売とは、酒類の売買契約の締結、すなわち、酒類の注文(申込み)を受け承諾することのみであると解するのが相当であると考える。しかし、営業所で販売が行われていないとする主張には賛同できない。

三  営業所における酒類の販売

クイニーシステムの内容を通覧してわかることは、営業所は単なる倉庫管理・宅配業者に止まらないということである。すなわち、営業所は、売れ筋の酒類の種類、銘柄、数量を見極め、自らの判断で甲に注文するというように、独自の判断で在庫量を調整していること、保管を委託されているとされる営業所が保管料(倉庫料)の支払いを受けるのではなく、逆に、仕入れ代金相当額の金額を「保証金」として支払っていること、注文された酒類の在庫が営業所にないときは、直接顧客と連絡をとり、注文内容の変更や配達の延期の交渉をする権限が与えられており、これに応じてもらえない場合には、近所のディスカウントストアあるいは近くの酒類問屋などから顧客の注文の酒類を購入して配達していること、独自仕入れや独自受注が容認されていることなどに特異性があるのである。そこで、更にすすんで、このような営業所が酒類の注文に対する承諾をしていたかということについて検討する。

1 承諾と所有権の関係

酒類の小売りという売買契約は、代金の支払いを受ける約束で酒類の所有権を移転することを約すること(承諾)により効力を生ずるものであり、本件クイニーシステムにおいて、酒類の注文に対する承諾をしている者は甲か営業所のどちらかであるが、所有権との関連で考えると、酒類の所有権も甲か営業所のどちらかにあるところ、甲に所有権があれば、甲が承諾し、営業所は配達(履行)をしていることになるが、営業所に所有権があるのに、甲が承諾しているとすると、甲は営業所から所有権を取得した上で顧客に配達を指示することになる。しかし、クイニーシステムにおいて、甲が営業所から所有権を取得するという法的事実はない。従って、営業所に所有権があるとすれば、営業所が承諾をしているのであり、甲は注文の取次ぎをしていることになる(第二四回公判における被告人甲野太郎の供述(速記録一四四六丁裏)も同様の認識を示していると思われる。)。

2 本件における酒類の所有権の所在

クイニーシステムにおいて、営業所が「保証金」という名目で仕入れ代金相当額を支払って占有を取得した酒類の所有権は営業所にあると解すべきである。弁護人は、仕入値相当額を積むことは、損害担保の保証金の目的からして合理的である、すなわち、甲は、仮に蔵置所内の酒類が毀損しても仕入値相当額の損害しか被らないのだから、保証金としては仕入値相当額を積むことで十分であるからであると主張するが、通常、保証金は、その物の価値の何割かを積むのが普通であるのみならず、その物の価値の全部を積むにせよ、一部を積むにせよ、保証金を支払う法律関係が終了した場合には、保証金を積んだ趣旨に従って控除した残額は返還するものである。

本件において、甲は、保管と宅配を委託しているという営業所と継続的な取引関係に立ち、保管を委託されたなどという者が保管料の支払いを受けるのではなく、逆に、甲にその物の有する価値(仕入れ代金)相当額を支払い、その物の占有を取得した上、顧客に引き渡すことを業務とし、販売代金は手もとに留保し、その一定割合と定額のみを甲に送金している。このような場合には、甲においては、営業所がその物をどのように処分をしようとも損害は生じないから、甲は、その金額を支払った者の処分を容認していることを強く推測させるものである上、販売代金をそれ自体として回収していないことは、その物の占有移転の対価を取得させることを意味するから、これらの事実によれば、甲は営業所に対し、その物の所有権を移転したと解すべきである。なお、営業所が酒類問屋に仕入れ代金を直接支払い、あるいは「独自仕入れ」により酒類の占有を取得した場合に、営業所にその酒類の所有権があることは言うまでもない。甲は、廃業した八戸営業所に対し保証金と称される金額の全額を返還していない。その理由は、製造年月などが記載されているビールなどで古いものは、処分せずに保管していた営業所の管理が悪いのであるから、引き取れないということにあるが、営業所が蔵置所であるとすれば、酒類を処分する権限、責任は甲にあるのであるから、営業所が古い酒類を保管していたとしても善良な管理者としての注意をしなかったことにはならない。保証金の全額を返還しない理由は、まさに、酒類の所有権が営業所にあることを表白したものである。

そうすると、クイニーシステムにおいて、酒類の所有権は営業所にあり、甲は注文の取次ぎをしているにすぎず、営業所が酒類の注文に対する承諾をしていると解すべきである。営業所が在庫量の調整・管理をしている事実は、注文に対する承諾をしている事実と裏腹の関係にある。

弁護人は、蔵置所に注文在庫がない場合は、蔵置所の担当者は、甲の一般的指示で甲の機関として、注文内容の変更依頼(変更というのは既に契約が成立していることが前提である。)をしているに過ぎない、すなわち、承諾は甲がしていると主張するが、クイニーシステムは、迅速に酒類を配達することがひとつの売り物になっているものであるが、甲において、営業所に在庫がなく直ちに配達しえない可能性のある酒類についても、すべて申込みに対する承諾をし、注文在庫がない場合には、単なる倉庫管理・宅配業者にすぎないという営業所に対し、注文者に注文内容の変更を依頼(甲のほうでは内容を把握していない新たな申込み)させるというのは、いかにも無理があり、不自然である。直ちに酒類を納品することが要請されている本件売買においては、在庫を管理していない甲の「承諾」と称する応対は法律上の承諾をしているとは認定できない。

3 クイニーシステムの実態

以上のとおり、酒類の仕入れ代金相当額の支払いを受けて、営業所に酒類の占有を取得させ、営業所が、顧客に酒類を引き渡し、販売代金を保管し、その一定割合等のみを甲に支払うというクイニーシステムの根幹は、営業所に酒類の所有権を取得させ、営業所に販売をさせることにあり、独自仕入れとか独自受注ということは、システムの当然許容することでもあり、営業所で酒類の販売をしていることの現れでもあるが、些末のことに属する。被告人らが「営業所」と呼称することは、その実態を率直に言い表したものである。そしてまた、この様に解しても、これと矛盾する事実はなく、被告人甲野太郎が、月例会で、営業所に営業成績を上げるよう鼓舞したり、営業所がその費用でちらしを作成し配付したりしていたなどの事実は、営業所で販売していることを裏付けこそすれ、矛盾するものではない。

四  被告人らの故意

被告人らは、右に述べたクイニーシステムの根幹の事実関係(甲が、酒類の仕入れ代金相当額の支払いを受けて、営業所に酒類の占有を取得させ、営業所が、顧客に酒類を引き渡し、販売代金を保管し、その一定割合等のみを甲に支払うこと)を当然認識していたのであるから、営業所で酒類の販売をしているという故意を有していたものである。被告人甲野太郎についてこのことは明々白々であり、被告人乙山を含む営業所の責任者についても、捜査段階における検察官に対する自白供述を待つまでもなく(長野の高松、新潟の間は、営業所責任者の所有であると認めていないが、その供述内容全体からみれば、営業所の所有と認めたのも同然の供述となっている。春日部のBは捜査段階で証人尋問され、酒類の所有権は甲にあり、販売代金も甲のものであると証言しているが、右の根幹事実については認めている。)、故意を認定できる。

五  本件訴因の法律構成

弁護人は、検察官の主張によれば、甲と蔵置所担当者との間には卸売行為があったと主張することになると思われ、そうすると、甲及び被告人甲野太郎については、無免許販売の罪(酒税法五六条一項一号)ではなく、小売りに限るとの条件違反の罪(同法五八条一項一号)の可否が問われるべきではないかと主張するが、仕入れ代金(卸値)相当額による販売が卸売りと言えるかどうかはともかく、仮に、条件違反の罪が成立するとしても、本件において、無免許販売の罪と条件違反の罪とが排斥関係に立つとは解せられない。

第三  以上、酒税法九条一項の酒販免許制度は、憲法二二条一項に違反せず、被告人らの行為は、無免許販売に該当し、無免許販売の故意を有していたものと認められるのであって、弁護人の主張はいずれも理由がなく、採用することができない。

(法令の適用)

被告人有限会社甲の判示第一の一から一一までの各所為は、酒税法六二条一項、五六条一項一号、九条一項に 被告人甲野太郎の判示第一の一から一一までの各所為は、平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前刑法」という。)六〇条、酒税法五六条一項一号、九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人甲野太郎について各所定刑中懲役刑を選択し、以上はそれぞれ改正前刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人有限会社甲については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二〇〇万円に、被告人甲野太郎については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役八月に、それぞれ処し、被告人甲野太郎について情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人乙山次郎の判示第二の所為は、改正前刑法六〇条、酒税法五六条一項一号、九条一項に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人乙山次郎を罰金二〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、改正前刑法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人乙山次郎を労役場に留置することとし、宇都宮地方検察庁において保管中の酒類の換価代金(宇都宮地方検察庁が平成五年領第一〇三五号の符第二九号から符第八六号までで領置した酒類に対するもの)合計一六八万一〇〇〇円は被告人乙山次郎の判示第二の犯行に係る酒類の換価代金であるから、酒税法五六条二項を適用してこれを没収する。

〈省略〉

(量刑の理由)

本件は、被告人有限会社甲(以下「被告人会社」という。)の実質的な経営者である被告人甲野太郎が、酒販免許を受けている販売場の売上げがディスカウントの酒屋等の進出により落ち込み、新たな免許を得られる見込がなく、自らが直接責任を持つ蔵置所から配達する方法にも限界を感じたことから、届出のみで設置できる酒税法上の蔵置所制度を利用し、税務署に対しては蔵置所と届け出、各地に販売場(営業所)を設置し、これらを販売の拠点とするクイニーシステムと名付けた販売システムを考案し、被告人乙山次郎ほか一〇名の共犯者と共謀の上、無免許で酒類販売業を営んだ事案である。被告会社及び被告人甲野太郎は、フリーダイヤルとコンピュータのオンラインシステムを用いて、客からの受注を酒販免許を有する被告会社の販売場において行っているかのように装い、各営業所から振り込ませる仕入れ代金を「保証金」と称し、各営業所が客から受領した代金について酒類の販売とはとられないような帳簿の記載を指示したり、各営業所責任者は被告会社の歩合社員ではないのに、各営業所責任者は被告会社の歩合社員であり被告会社は各営業所に歩合給を支払う旨の条項を記載した契約書を各営業所との間で取り交わしたり、被告会社が各営業所事務所あるいは倉庫を賃借している旨の虚偽の賃貸借契約書を作成したりして、酒類の販売を行っているのはあくまで酒販免許を有する被告会社の販売場であるかのような外観を作出するなど、極めて巧妙な手口によって酒販免許制度を潜脱したものである。また、免許がなくても酒類が販売できるなどというキャッチフレーズで広く営業所の責任者を募るなどし、平成二年六月から平成五年五月までの約三年間、青森、福島、東京、埼玉、千葉、新潟、長野の一都六県、合計一一か所において無免許販売を行い、その酒類販売量は合計二〇一万二七三二・七八四リットル、その代金は合計一一億九五二〇万六一八三円に及んでいる。本件は、この種営業犯の中でも大規模かつ組織的で非常に悪質な犯行である。

被告甲野太郎は、本件の販売システムを考案し、営業所の仕入れ代金は保証金であり、本件システムは違法ではないと説明して、多数の共犯者を無免許販売行為に巻込んだ本件犯行の主謀者であり、同被告人の存在があって初めていずれの無免許販売行為も可能となったものである。また、被告人甲野太郎は、前述のように様々な工夫をこらして無免許販売の実態を隠蔽したばかりか、各営業所が国税局の臨検・捜索・差押を受けた後も、営業所の責任者らに対して、本件が無免許販売には当たらない旨述べて本件販売システムによる営業を継続させたり、取調官に対して営業所は酒類を預かって配達しているだけである旨供述するよう指示するなど罪証隠滅工作をしており、犯行後の情状も悪い。被告人甲野太郎の刑事責任は重い。

被告人乙山次郎は、自らも営業所責任者の一人として無免許販売を行ったことに加え、共犯者の中でも本件販売システムへの参加時期が早く、後から参加しようとした者に本件販売システムは無免許販売に当たらないなどと説明したり、営業所責任者らが集まる月例会において営業活動に関して、営業所責任者らが集まる月例会において営業活動に関して積極的に発言したり、他の営業所責任者から営業活動に関する相談を受けたりするなど、本件販売システムの拡大に重要な役割を果たしており、犯行後は、他の営業所責任者らに対し、酒類の所有権及び酒類販売代金の所有権が被告会社にある旨取調官に供述するよう働きかけて、罪証隠滅工作を行ったものである。被告人乙山次郎の刑事責任も軽視することは許されない。

しかし、被告人らにはいずれも前科がなく、酒販免許制度の通用の改善や制度自体の見直しが国の政策課題とされつつあるという現状にもある。

そこで、これらの諸事情を総合考慮すると、被告会社及び被告人らに対しては、主文掲記の刑が相当である(求刑 被告会社について罰金二〇〇万円、被告人甲野太郎について懲役八月、被告人乙山次郎について罰金二〇万円及び本件酒類の換価代金一六八万一〇〇〇円の没収)。

よって、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 肥留間健一 裁判官 伊藤正高 裁判官 間史恵)

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